犬は、人間と同じように年齢を重ねると、歯のトラブルを引き起こす可能性が高くなります。
とくに多い歯のトラブルは歯周病で、8割以上の犬が歯周病予備軍であるともいわれています。
犬の歯周病を予防するためには、定期的な歯磨きが必要です。しかし、「歯磨きのやり方がわからない」とお困りの飼い主さんもいるのではないでしょうか。
そこで今回は、犬の歯磨きの仕方をステップ別に紹介します。嫌がるときの対処法についても解説するので、ぜひ参考にしてください。
犬の歯磨きは、口臭や歯周病を防ぐために不可欠なお手入れです。
ペットメディカルサポート株式会社が公表した調査結果によると、2022年1月1日~2022年10月31日までに保険金の支払い件数が一番多かった犬の歯の病気は、歯周病でした。
全体の55.3%と半数を超えており、歯周病の治療をしている犬が多いことが分かります。
歯周病とは、歯に残った食べカスや歯垢などを栄養に細菌が繁殖し、歯肉や歯茎などに炎症を引き起こす病気です。
酷くなると、あごの骨が溶けたり、咀嚼するたびに痛みを感じたりするようになります。また、口内の細菌が血液を介して、全身に広がり、肝臓・腎臓・心臓などの内臓に悪影響を及ぼす危険性があります。
アニコム損保株式会社が行った分析によると、歯周病に罹患している犬の翌年の傷病発症率は、健康な犬と比較して約1.4倍高いことが分かりました。
この結果から、愛犬に健康で長生きしてもらうために、定期的な歯磨きは必須といえるでしょう。
犬は、人よりも早く歯垢が歯石へと変化するとされています。約3~5日で歯石ができるため、3日に1回は歯磨きをする必要があります。
ただし、歯周病の予防には1本1本の歯をきれいに磨かなければなりません。
1本ずつ丁寧に磨くのには時間がかかるため、1回ですべての歯をきれいに磨くことは難しいでしょう。一度ですべての歯を磨こうとせずに、毎日少しずつ磨いていくことが大切です。
歯周病になり動物病院で治療が必要になると、高額な医療費がかかります。愛犬のためにも1日1回の歯磨きを習慣化しましょう。
犬の歯磨きをする際には、以下の用品を用意しましょう。
犬の歯磨きには、人間の子供用の歯ブラシがよく使用されます。
しかし、人間用の歯ブラシはブラシ部分が硬く、犬が嫌がるケースが少なくありません。そのため、犬用の商品を用意することをおすすめします。
犬用の歯ブラシは、一般的な形のモノや指にはめて使用するタイプなどがあります。
指にはめて使用するタイプは指磨きのように使用できるため、歯磨き初心者の飼い主さんにも使いやすい商品です。飼い主さんの使い勝手や愛犬の様子を確認しながら、歯ブラシを選びましょう。
歯磨きペーストまたはジェルは、チキン味やバニラミント味などさまざまなフレーバーが販売されています。歯磨きを抵抗なく行うためには、愛犬の好みの味を選んでみてください。
犬の歯磨きは、いきなり歯ブラシで歯を磨くことは避けたほうがよいでしょう。
多くの犬は口周りを触られることを嫌がるため、突然歯磨きを始めると警戒する可能性があります。
歯磨きを始めるときには、徐々に慣らしていくことが大切です。
ここからは、犬の歯磨きの仕方を解説します。
それぞれのステップでの注意点も紹介するので、愛犬の歯磨きを始める飼い主さんは、ぜひ参考にしてください。
まずは口周りに触られることに慣れる練習から始めましょう。
最初に口周りを手で優しく撫でていきます。愛犬が大人しくできていれば、よく褒めてごほうびをあげましょう。
口周りを撫でても問題なければ、唇をめくって歯に触れる練習をします。愛犬が不安に感じないように優しく声をかけながら行うのがポイントです。歯に触れても大人しくできていればごほうびをあげてよく褒めます。
いきなり奥歯を触ると嫌がる可能性が高いため、まずは犬歯や前歯に触れて、問題がなければ奥歯を触る練習をしてみてください。
口周りを触っているときに愛犬が嫌がった場合、叱ったり押さえつけたりはしてはいけません。嫌がったときは、手の動きを止めて愛犬が落ち着くのを待ちます。
長時間口周りを触る練習をするとストレスの原因となります。マイナスなイメージを持つ可能性が高いため、練習は30秒~1分ほどの短時間で終わらせましょう。
愛犬が口周りや歯に触られることに慣れたら、指にガーゼやコットンを巻きつけて、こすり磨きをしていきましょう。
歯や歯茎の表面を優しく撫でるように磨きます。まずは前歯から始めて、慣れてきたら奥歯も磨きましょう。
歯を磨くときには、優しく声をかけながら行います。大人しくできていたらよく褒めてごほうびをあげましょう。
ガーゼや歯磨きシートが使えるようになったら、歯ブラシに慣れさせていきます。
まずは、歯ブラシをみせてにおいをかがせたり、噛んだりと自由に確認してもらいます。警戒せずに確認ができたらよく褒めましょう。
次に愛犬にマテをさせて、歯ブラシをみせながら唇をめくる練習をします。最初は一瞬でも大人しくできたらごほうびをあげます。徐々に唇をめくっても大人しくできる時間を増やしていきます。
唇をめくっても嫌がらないようになれば、歯ブラシを歯に当てます。このとき、歯を磨くのではなく、歯に当てるだけにするのがポイントです。歯ブラシを歯に当てる時間も徐々に長くしていきましょう。
歯ブラシに慣れさせるときにも、優しい声かけとよく褒めることを忘れないように注意しましょう。
最後に、歯ブラシで歯を磨いていきましょう。
まず、歯ブラシに歯磨きペーストをつけます。歯ブラシを口に入れる前に、ペーストを愛犬に舐めさすと、安心感を与えられるでしょう。
次に歯ブラシを歯に対して45度の角度で当て、前歯から順番に優しく磨いていきます。
毛先を優しく動かして、歯を1本ずつ磨いていくのがポイントです。奥歯や歯と歯茎の間は汚れが付きやすいので、念入りに磨きます。歯磨きに慣れていないうちは、1か所磨けるたびにごほうびをあげてよく褒めましょう。
上の歯は口を閉じた状態でも磨けるので、口をこじ開けないようにしましょう。
できるだけ愛犬の嫌がることはしないように意識することで、歯磨きにプラスの印象を与えることができます。
また、歯の裏側も磨いたほうが歯周病予防に効果的です。しかし、歯の裏側が磨きにくく、嫌がる可能性が高いといえます。無理に磨こうとせずに、歯磨きに慣れてきたら挑戦してみてください。
始めはすべての歯を磨こうとせずに、「今日は前歯、明日は右側」と何回かにわけて磨きましょう。
一度でも歯磨きに対してマイナスなイメージを持った犬は、次から嫌がるようになります。
歯磨きを習慣化するには、「歯磨きは楽しい」「飼い主さんがいっぱい褒めてくれる」と愛犬に感じてもらうことが不可欠です。
ここでは、歯磨きにポジティブな印象を持ってもらうためのポイントを3つ紹介します。
それぞれのポイントについて詳しく解説します。
犬の歯磨きは、力を入れすぎないことを意識しましょう。
適切な力加減は、人間の歯を磨くときの10分の1程度ともいわれています。力を入れて磨くと歯茎を傷つけてしまったり、愛犬が痛い思いをしたりするケースも少なくありません。
力を入れすぎないようにするために、歯ブラシは鉛筆を持つように握ります。力が入りすぎずに動きをコントロールしやすいため、歯の細かい所まで磨きやすくなります。
また、歯磨きの力加減は、歯ブラシを手の甲に当てて痛くないように調整してみてください。歯磨きを始める前に、自分の手の甲で力加減を確認しておきましょう。
愛犬を歯磨きに慣らすには、ごほうびを使いながらよく褒めることが不可欠です。よく褒めることで「歯磨きは楽しい時間」と認識し、嫌がらずに歯磨きができるでしょう。
大人しくできているときは、「いい子だね」と優しく声をかけ、愛犬をリラックスさせます。「口周りに触れた」「歯に触れた」などの小さなことでも、できたら必ずごほうびを与えます。
また、歯磨き中の飼い主さんの雰囲気にも注意が必要です。
歯を磨くことに夢中になっていると、真剣な顔になったり、無言になったりしてしまうケースが多くあります。飼い主さんが無言になると、愛犬が緊張感や恐怖心を感じる可能性があります。優しく声をかけることを忘れないようにしましょう。
歯磨きは無理やり行わないことが大切です。無理やりすると「歯磨きは嫌なこと」と認識し、次回から口を触ることさえできなくなる可能性があります。
また、愛犬が嫌がって暴れているからとおやつを与えてなだめないこともポイントです。
暴れているときにおやつを与えてしまうと、「嫌がったらごほうびがもらえた」と学習し、次回から暴れるようになります。
歯磨きは、愛犬が大人しくできる短時間だけ行い、嫌がってしまう前に終了しましょう。
子犬は、生後3ヵ月頃までに乳歯が生え揃います。乳歯が生え揃うタイミングで歯磨きの練習を始めることをおすすめします。
4~6ヵ月頃から乳歯が抜け落ち、永久歯が生え始めます。そのため、乳歯を磨いてもあまり意味がないと思う人もいるでしょう。
しかし、歯磨きは子犬の頃から始めたほうがスムーズに練習できます。将来的に慣れてもらうためにも、生後3ヵ月頃から歯磨きを始めておきましょう。
子犬の歯磨きの頻度は、2日に1回程度です。
最初のうちは口周りを触る練習や、口の中に歯ブラシを入れる練習だけでもよいでしょう。
また、やんちゃな子犬の場合、歯磨きの練習中に暴れる可能性があります。運動後や食事後など、子犬が落ち着いて過ごせているときに行うことをおすすめします。
子犬の歯磨きは、永久歯が生え揃うまではトレーニングとして行います。
そのため、無理にすべての歯をきれいにする必要はありません。
子犬の歯磨きトレーニングで大切なのは、歯磨きにマイナスなイメージを与えないことです。大人しくできているときにはよく褒めて、成犬になっても歯磨きを嫌がらないように習慣化しておきましょう。
ここまで犬の歯磨きのポイントについて紹介してきましたが、「口すら触れない」「どう頑張っても嫌がって暴れてしまう」とお困りの飼い主さんもいるでしょう。
ここでは、嫌がる犬への対処法を3つ紹介します。
歯磨きができずに困っている飼い主さんは、ぜひ参考にしてください。
歯磨きを嫌がる場合、タイミングを変えてみることをおすすめします。
たとえば、興奮しやすい犬は、散歩後や遊んだ後などがよいでしょう。運動後はストレスも解消できているため、大人しく歯磨きを受け入れる可能性があります。
反対に、散歩前やご飯前、留守番後などの体力が有り余っている状態のときは、暴れるケースが多くあります。
愛犬の様子をみながら、ベストな時間帯を探してみましょう。
口周りを触られるのを嫌がったり、歯ブラシを嫌がったりする犬には、歯ブラシ以外の口内ケアグッズの活用がおすすめです。
口内ケアグッズには、下記のような種類があります。
ただし、人が直接歯を磨かない「デンタルおやつ」は、帝京科学大学の論文によると口の中の菌が増殖した事例もあり、有効性が疑問視される結果となっています。
そのため、「デンタルおやつ」だけを使用するのではなく、ほかの口内ケアグッズも併用することが大切です。
道具を変えたり、タイミングを変えたりしても歯磨きができない場合は、すでに愛犬が歯に痛みを感じてる可能性があります。歯周病などが疑われるため、動物病院に相談してみてください。
動物病院では歯石・歯垢除去が可能です。動物病院によっては歯科外来があり、専門的な治療を受けられるケースもあります。
いろいろと対策しても歯磨きを嫌がる場合は、無理せずに動物病院に相談してみましょう。
歯磨きは、歯周病や口臭を防ぎ、犬を健康で長生きさせるために欠かせないお手入れです。
歯磨きを始める際には、いきなり歯ブラシで歯を磨くのではなく、口周りに触れるところから徐々に慣らしていく必要があります。
歯磨きをする際に最も大切なことは、マイナスなイメージを与えないことです。歯磨きにマイナスなイメージを持つと、歯ブラシを持つだけで逃げるようになる可能性があります。
歯磨きは楽しいことというイメージを持ってもらえるように、この記事を参考に愛犬の歯磨きにチャレンジしてみてください。